大津市歴史博物館

お知らせ

第118回ミニ企画展
小野神社の大般若経U
平成27年 1月20日(火)〜3月1日(日)

大般若経 全600巻のうち第268巻(巻末)

概要

 遣隋使小野妹子ゆかりの地として知られる大津市小野には、小野神社が鎮座しています。祭神は、天足彦国押人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)と米餅搗大師主命(たがねつきのおおおみのみこと)、小野妹子(おののいもこ)で、9世紀の『延喜式』「神名帳」に、「志賀郡八座、小野神社二座、明神大社」と載せる古社です。境内には、小野篁(おののたかむら)、をまつる小野篁神社や、小野道風をまつる小野道風神社があり、それぞれ暦応4年(1341)と暦応2年(1339)の重要文化財の社殿をもつことでも知られています。
 この小野神社には、大般若経が600巻、鎌倉時代の箱とともに伝来しています。大般若経は、大乗仏教の基本となる経典を集大成したもので、600巻からなる経典群です。630年に玄奘三蔵がインドから持ち帰って翻訳し、まもなく我が国にも伝来しました。日本の各寺社では、この大般若経を読誦することが行われますが、600巻という膨大な数の経典を法会で読むことは困難で、簡易に読むふりをする「転読」が流行します。小野神社でも毎年9月に行われていて、管理する複数の総代によって確認、保管作業も行われる転読は、文化財保護の一面ももっていました。
 歴史博物館では、小野に伝わる貴重な文化財である大般若経を保護するためすべてを受託し、現在その実態調査を進めているところです。調査は、平成25年度から博物館学芸員課程の実習生とともに行い、教育にも利用しています。
 今回のミニ企画展では、平成26年夏に博物館実習で行った第236巻から392巻の157巻(全600巻の内)の内、その書体から奈良時代(8世紀後半)の書写である可能性があるものを初公開します。地域で守られてきた経典、実習生が努力して調査して見つけたバリエーション豊かな魅力を紹介します。なお、小野神社の大般若経は今まで公開されたことがあまりなく、大変貴重な機会となるでしょう。


小野神社の奈良時代の経典について

 大津市小野1961に鎮座する小野神社には、「大般若経」全600巻が伝来しています。600巻の多くは、平安時代や鎌倉時代に書写されたものですが、そのうち第268巻と第355巻は、奈良時代に書写されたものであることが今回の調査で分かりました。

 

1.調査経緯

 小野神社に大般若経が伝来していることについては以前から知られおり、特に滋賀県教育委員会が主体となった古経典調査においても調査が行われ、『滋賀県所在古経典緊急調査報告書』(滋賀県教育委員会 平成21年)にも掲載されています。歴史博物館ではこのような貴重な大般若経を後世に伝えるべく、地元の要請により平成25年に受託しました。そして夏に行っている博物館実習において、参加している約30名の学生とともに、調査・点検を行い、現在までに392巻まで終了しています。
 平成26年度に行った、第236巻から第392巻の157巻のうち、第268巻と355巻、そして第359巻については、その書体から奈良時代に書写された可能性が推測されました。
 そこで、大阪大谷大学の宇都宮啓吾教授(国語学)に書誌的な詳細調査を、さらに龍谷大学古典籍デジタルアーカイブ研究センター(江南和幸、岡田至弘の両氏)に高精細顕微鏡による紙質調査(主に紙の漉き方を調査)を依頼し、平成27年1月に調査を行いました。
 その結果、第268巻と第355巻については奈良時代(8世紀後半)、第359巻は奈良〜平安初期(8世紀末)の書写であることが判明しました。

 

2.調査結果

 
大般若経 全600巻のうち第355巻

  

〔1〕第355巻 ⇒奈良時代後期(8世紀後半)

 ・1紙の幅、56〜57p(平安時代前半以前の料紙サイズ)
 ・太くどっしりとした扁平な字体、肉太で重厚な雰囲気は、奈良時代後半の書体
 ・麻混じりの楮紙の「溜め漉き」。⇒8世紀
  ※西暦800前後からわが国では「流し漉き」が流行りはじめるが、8世紀までは「溜め漉き」が主流。

 

〔2〕第268巻 ⇒奈良時代後期(8世紀後半)

 ・字体は骨があり、しっかりと、きりっとしている。扁平ぎみ。字がやや細目なのは天平年間(8世紀中頃)に多いが、本経はその少し後くらいに書写か。
 ・楮の溜め漉き。⇒8世紀

 
経紙質調査風景

 大般若経(全600巻)は、欠本や破損が生じた場合には、新たに書写したものを加えるか、もしくは他に伝来しているものを充填し、600巻を維持している例が多くみられます。
 小野神社の場合も、上記の巻が失われた際、別の所にある大般若経の当該巻を充填したわけですが、それが本体(平安〜鎌倉時代がメイン)よりも古い奈良時代のものだったということです。
 奈良時代の経典が発見されることはめったにないことですが、これらの巻は小野神社の大般若経に加えられたことによって、今日まで伝世しえたということができます。

展示作品一覧

       
 1   大般若経 全600巻のうち第268巻    1巻 奈良〜平安時代
 1   大般若経 全600巻のうち第355巻    1巻 奈良〜平安時代
 1   大般若経 全600巻のうち第359巻    1巻 奈良〜平安時代
 1   大般若経 全600巻のうち第600巻    1巻 奈良〜平安時代
 5   大般若経 経箱 6合 のうち1合      1合 鎌倉時代 弘長2年(1261)
 6   大般若経 経帙 60帙 のうち1帙     1帙 南北朝時代 貞治6年(1367)
 7   釈迦三尊十六善神図             1幅 江戸時代
                                     全て小野神社蔵

   

企画展インフォメーション

タイトル 第118回ミニ企画展 小野神社の大般若経U
会期 平成27年 1月20日(火)〜3月1日(日)
期間中の休館日 月曜日(月曜日が祝日の場合は、翌日休館日)、2月12日
会場 大津市歴史博物館 常設展示室内 ミニ企画展コーナー
観覧料 常設展示観覧料でご覧いただけます。